疫病除けのまじない食① 疫病を鎮める「鎮花祭」の神饌
2020年は新型コロナウィルスの感染拡大で大変な年になってしまいました。
医療や研究に携わる人たち以外の一般の我々が今できることは
できる限りの感染予防に努めながら、疫病が早くおさまるように祈ることだけです。
今は医学の進歩によってある程度の病気は治療法がありますが、
今ほどの医療がなかった昔は病除け、疫病除けというのは切実な問題だったことは想像に難くありません。
私自身も祈りや願いを込めた食=まじない食を取材してきて感じるのですが、
日本各地には実に多様な疫病除けの習俗が残されています。
疫病除けを祈って食べる食べ物も各地にたくさん伝わります。
まずはその中でもかなり古い時代から伝わるものをご紹介します。
奈良県の大神神社/狭井神社で行われる「鎮花祭」の神饌です。
昔は春に舞い散る桜の花びらに乗って病を起こす「疫神」が飛び散ると考えられたことから、
疫病退散を祈るために花を鎮める祭りとして始まったものです。
この日は御神前に薬草のスイカズラとユリネが供えられます。
薬草は今の薬の始まりとなったものでもあり、
別名薬まつりとも呼ばれ、
全国から多くの製薬関係者のかたが参列されます。
大神神社の鎮花祭りでは「献薬」としてたくさんの薬が神前に献じられます。
境内にはたくさんの種類の薬草が植えられた「くすり道」があります。
この日は大神神社と境内の狭井神社の両社で神事が催行されますが、
途中、神職らがくすり道を参進する様子も見ることができます。
ちなみに、狭井神社の社殿横には井戸があり、
ここから湧き出る水は「薬水」と呼ばれ、
薬水を飲むとさまざまな病気が治るとされます。
地元の方はよく汲みに来ると聞きました。
衛生的に飲めるように配慮もなされていますので、
お立ち寄りの際はぜひ探してみてください。
大神神社の鎮花祭(くすり祭)については
私の本『ニッポン神様ごはん』でも全 14ページ、たくさんの写真とともにご紹介しています。
ご興味ある方はぜひ読んでみてください。
『ニッポン神様ごはん 全国の神饌と信仰を訪ねて』(吉野りり花著・青弓社刊)