『ニッポン神様ごはん』電子書籍化のお知らせ

吉野りり花の本『ニッポン神様ごはん』(青弓社刊)が電子書籍化されました。
『ニッポン神様ごはん』は神社などで神様の食事として献供される「神饌」についての本です。
Kindle派の方はこの機会にぜひ読んでみてください。

 

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『ニッポン神様ごはん』はどんな本?

 

この本は神様の食「神饌」をテーマにした本です。
全国に残る10の特殊神饌を、私がひとりで訪ね歩いて取材・撮影して執筆しました。

ぜひたくさんの人に読んでもらいたいので、
どんな本なのかダイジェストで解説したいと思います。

 

神饌って何?

神様がお食事をなさるということをご存知の方はおそらく少ないでしょう。
が、神様にもお食事の時間があります。
神社では毎日神様にお食事を献供します。それを「神饌」と呼びます。

宗像大社古式祭の神饌

 

なぜ私は神饌に興味を持ったのか?

 

私は神社の助勤巫女としてご奉仕していた経験があります。
(神社で働くことを奉仕・奉職といいます)
助勤巫女というと通常はお正月や七五三などの繁忙期に臨時でということが多いのですが、
私の場合、継続して一年を通じてご奉仕していました。
そのため、ほぼ本職と変わらない内容を担当していました。

境内の掃除、社務所でのお札やお守りの授与にはじまり、
御祈祷のご案内、結婚式の進行役や三三九度、地鎮祭の鎮め物の準備、巫女舞の奉奠まで。
そんな中で御神饌の準備を間近で見る機会も当然ありました。

私たちの身近にある食材が、神様に献供するというプロセスを経ることで
特別で神聖なものに変化するかのように感じ、とても驚きました。

 

どんなものが供えられる?

 

神社の御神前に、御神酒や野菜などが供えられているのを見たことがある方は多いかもしれません。
正式には大きな祭では「米、酒、餅、海の魚、川の魚、野の鳥、水鳥、海菜、野菜…」などと
細かく品目が決められています。

ですが、この品目が決められたのは明治時代のことで、
それ以前はもっと色々なものが使われていました。

餅ひとつとっても、神社や祭りによって、いろんな作り方があります。
獣肉を用いる例は少ないと思われるかもしれませんが、なかには鹿や猪が献じられる例もあります。
食材だけでなく、花や兜なども神饌に使われます。

写真は第4章大神神社の鎮花祭で供えられる薬草です
スイカズラとユリネを使い、桃の花を添えます。

大神神社/狭井神社 鎮花祭の神饌

大神神社から狭井神社へ続く「くすり道」

 

神饌は食のタイムカプセル

神社によっては独自の神饌が受け継がれており、

古代の作り方をそのまま継承して作り続けられているものもあります。

これを特殊神饌といいます。

神様に捧げるものだから、簡単に作り方を変えるわけにはいかない。
神々の食事という特殊な役割を担っていたからこそ、
古代食のおもかげがそのまま残されたという例もあります。

これが、神饌が「食のタイムカプセル」と称されるゆえんです。

(厳密に言うと、食材や調理法の関係もあり、全て古代そのままというのは難しいのですが、

できる限り古式を尊重して受け継がれています)

 

現代の私たちが、古代の食事を実際に見られると考えるとワクワクしませんか?

老杉神社エトエトの神饌

 

上の写真は第2章で紹介した老杉神社のエトエトの神饌です。

作り方(調製法)にも信仰があらわれています。

例えば、エトエトの神饌のひとつ「めずし」(写真下)は酒粕をボールのように丸め、

指で穴をあけ、琵琶湖の魚・ボテジャコを生きたまま突き刺して作ります。

なんでそんなことをするのか?と思ってしまいますが、
これはボテジャコをお酒に酔わせることで
神様に少しでも新鮮なものを召し上がっていただこうという気持ちのあらわれだそうです。

めずしは古代のすしの原型のひとつとも言われます。

エトエトのめずし

エトエトの銀葉作り 六芒星形を重ねるように積み上げる

 

こちらは宮城県塩竈市の御釜神社の藻塩焼神事。

海水を釜で煮詰める古代の塩づくりが、神事の中で受け継がれています。
海水を漉すのにはホンダワラという海藻を使います。

藻塩焼神事-海藻で海水を濾す

藻塩焼神事-鉄釜で海水を煮詰める

海水を鉄釜で煮詰め塩を作る

 

神饌は芸術的

神様に捧げるものだから、丁寧に、心を込めて、最上のものを使って作られます。
なかには芸術的な美しさを持つものも。
有名なものに談山神社・嘉吉祭の百味御食があります。

こちらは京都・北白川天神宮の高盛御供の神饌です。
一見しただけではどうやって作るのか見当もつきません。

保存会の方々が一晩かけて徹夜で作るこの神饌は、飾りつけられた文様のひとつひとつにまで意味が込められています。

高盛御供の神饌

 

高盛は献饌の際に頭の上にのせて運ぶのも特色です。

北白川一帯ではかつて花売りの白川女がいたところです。

白川女は頭の上に重い花をのせて運んだことから、
高盛御供でも白川女の衣装に身を包んだ女性たちが、頭の上に神饌をのせて運びます。

頭の上にのせて神饌を運ぶ

このように神饌を通してその土地の歴史や文化が見えてくるのも面白いところです。

 

 

こちら(写真下)は貴船神社の若菜神事で献供されるぶと団子としいば餅。

若菜神事のぶと団子としいば餅

ぶとは中国から伝わった唐菓子の一種で、神饌によく使われます。
春日大社の御神饌に用いられることでも知られています。

春日大社のぶとは揚げて作られるそうですが、
貴船のぶと団子は揚げずに作ります。
むすぶような形にも意味が込められます。

形や色や運び方や作法にまで様々に意味が込められているのも興味深い点です。

 

どう変化し、どう守るか?迷いながら受け継ぐ人々

 

日本の生活はすっかり様変わりしました。
四季と農事にあわせた信仰は、今の時代には即さない部分も増えています。

そんな中でどう受け継ぐか。
継承する方々は迷いながらも伝統を守り続けていらっしゃいます。
受け継ぐ方々の姿もしっかり伝えたいというのがこの本のひとつのテーマです。

人々は何を想い、何を祈り、どう受け継いできたのか。これから先はどうなるのか?
受け継ぐ人々の想いも感じてもらえたら嬉しいです。

 

神饌の準備は本来非公開で、女人禁制で行われることも多いです。
本の取材のために、特別に見学を許可してくださった取材先の方々には感謝ばかりです。

 

旅エッセイとして読むなら

この本は神饌というマニアックなテーマを扱っているため
序章で神饌とは何かを説明しています。
ただ、テーマがテーマだけにどうしても少々専門的になってしまいます。

本書を旅エッセイとして旅の雰囲気を味わいながら楽しみたい方は
ぜひ第一章の貴船神社から読み始めてください。
きっと旅に出ているような気分で、読み進められるはずです。
そして最後に序章を読んでもらえたらすっと分かると思います。

神道関連や民俗学関連の本を読み慣れているから全然平気という方は
どうぞ「序章」からお読みください。

貴船神社へ

 

知られざる神々の食について書いた『ニッポン神様ごはん』。

ぜひ皆様もこの本でまだ見ぬ伝統の世界を覗いてみてください。

 

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